進路指導部から

進路指導部からのメッセージ

総合型選抜・学校推薦型選抜について

 6月30日に「第28回大学入試のあり方に関する検討会議」が開催され、提言の案が会議資料として配布されました。このなかで、総合型選抜・学校推薦型選抜を今後も推進すべきことが述べられています。総合型選抜・学校推薦型選抜は一般選抜と比較して、評価に一定の時間を要する選抜方法(面接・口頭試問・小論文試験等)を実施しやすいなど、志願者と大学とのより良いマッチングにもつながる、としているという考えに基づいています。

 ところが、AO・推薦入試に関する実態調査の結果、小論文、口頭試問、プレゼンテーションなどの選抜が必ずしも広く行われていない状況があるとのことです。その理由について、選抜に手間をかけることが可能かどうかを考えるために、一般選抜における記述式問題の出題状況を見てみます。提言案では、このことについて、国公立では81.6%であるのに対し、私大では54.1%にとどまるのが現状であると述べています。一般に私大では受験生が多く、採点時間と人材の確保に難しい面があるとのことです。こうした状況が、推薦入試への対応にも当てはまるのではないでしょうか。

 今後も、総合型選抜・学校推薦型選抜の理想を追求して入試改革を進めていく必要はありますが、その理想どおりの選抜は実施が難しいのが現状です。どのような選抜が行われるのかをしっかり見極め、単に早く進路を決定したいという動機だけから安易に推薦入学を目指すのは、現状では勧められないという理由はここにあります。

学部選び

 3年間を見通した進路指導のなかで、2年生の年度末までに第1志望を宣言してもらいます。もちろん3年次になってからも志望校については検討を続けますが、2年生の終わりまでにいったんは志望する大学像を明らかにしてもらいます。
 そのためには進学する学部を決めるわけですが、その際によくある質問についてお伝えします。
 まず、「多くの国立大学に教育学部があるのですが、私立大学には教育学部が少ないのはなぜですか。」というものです。教員になるには、必ずしも教育学部でなくてはならないのではなく、教員免許を取得できる課程があればどんな学部でも大丈夫です。私たち教員も、教育学部のほか、文学部や理学部、体育や芸術学部出身の人がたくさんいます。
 また、「私大では学科が細かく分かれていますが、国立大は学部で募集するケースが多く、自分の学びたい分野があるのかどうかわかりません。」というものです。国立大学は学部で募集し、入学後に専攻分野を決める場合が多いのです。たとえば、史学科と明確な学科名がなくても、文学部であればまず史学専攻はあるはずです。
 いずれにしても、蛍雪時代4月増刊号「学部学科案内号」をみると、自分の学びたい分野がどんな学部にあって、それがどのような大学にあるかを調べることができます。この本は生徒の皆さんの各教室においてありますから活用してください。

何のために学ぶのか

 1989年11月、ベルリンの壁が開放される様子はリアルタイムでテレビ放映されました。アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』(The end of history)で、人類が目指してきた自由主義がゴールに到達したと考え、当時世界の多くの人がそれを信じました。

 ところがそれは楽観だったのでしょうか。スウェーデンの調査機関V-Demは、2019年の世界に民主国家・地域は87あり、非民主国家は92あると報告しました。あれから30年を経た今、なんと民主国家は少数派なのです。

 コロナウィルス対策では強権的な政治を行う国家では、都市封鎖(ロック・ダウン)や個人の行動追跡といった徹底した感染拡大防止策を取り、感染者数、死者数を抑え込んでいます。一方で基本的人権を尊重し、経済活動の自由を保障しつつ「自粛」によって感染拡大を抑制しようとする国家は苦戦しています。

 人権を保障しながら経済的繁栄を続け、平和と国民の健康を守る国づくりに諸君はどう関わっていきますか。これを考えるために君たちは今学んでいるのです。進学がゴールではありません。使命感を持って学んでください。

夏の8週間

 進路指導室では3年次生の二者面談を進めています。ここで生徒に話しているのは「夏の8週間」を具体的な計画を立てて受験勉強をすること、です。
 夏休みは7月21日から8月26日までの37日間です。しかし1学期末には、期末考査最終日から終業式までの2週間は自分の計画に沿った勉強ができます。これと2学期当初の授業が軌道に乗るまでの期間を合わせて8週間の勉強計画を立てるよう勧めています。
 志望校とのギャップを着実につめるためには苦手科目を克服することが近道です。夏の重点科目の勉強量を見定め、これを8週間で割り、1週間、1週間目標に近づいていくことを実感できるよう具体的な計画をたてることが重要です。
 生徒たちが目標にむけて夢を持って努力を積み重ねることを期待しています。

文理分断からの脱却

 この時期、たくさんの生徒が次年度の選択科目をどう選んだらよいか、進路指導室に相談に来ています。志望学部に応じたアドバイスをしていますが、生徒の本音の部分で文系が数学を遠ざけ、理系が古典を敬遠する様子に暗澹たる気持ちになります。

 文科省は『Society5.0に向けた人材育成』で文系、理系を分けて学ぶのではこれからの時代を生き抜く人材を育成できないことを指摘しています。名古屋大学の隠岐さや香先生の分析によると、なぜ文理分断が起きたのかといいうと、明治日本が近代化を急ぐために法学と工学を重視し、それぞれの専門分野に特化した大学制度を設計した。しかしそのために、日本の教育制度には高校生の時に文系、理系を選択することで生涯を規定してしまう傾向がある、と警鐘を鳴らしています。専門分野は大学院に行ってからでもよい、とも発信しています。

 本校では、文系・理系を分けるのは3年生になってからとし、3年生の夏までは模擬テストでは3教科+1教科以上を受験させています。大学進学のための受験科目だけに絞ってしまうのではなく、すべての教科をバランスよく学んでほしいからです。