進路指導部からのメッセージ
主体的に勉強のルーティンを定めよう
大リーグエンゼルスのスタジアム、左中間のフェンス前に「大谷の小さな穴」があるそうです。日々ルーティンワークを行う大谷翔平選手の足がいつもそこに収まってできた穴です。毎日、重さと大きさの異なる6つのボールを、体幹を使って後ろに投げるトレーニングをしているのです。重さの違いを自覚しながら投げることで漫然と投げるのを防ぎ、効率よく腕を振る狙いがあるのだそうです。
分散登校が行われた9月に生活のリズムをコントロールできず、勉強時間が減ってしまったという声を聞きました。オンラインで受講していても、勉強に対する姿勢が受け身であったために十分な学習効果をあげられなかったのでしょう。主体的に、自分が今強化すべき教科、科目を考え、毎日決まった時間に決まった勉強をしようと決める。決めたことはルーティンとして必ずやる。主体的に学ぶ態度とはこうしたものだと思います。
10月からは通常の授業を実施できるようになりました。各自が主体的にルーティンを定めて一日一日着々と勉強をしましょう。
大学の定員充足率
28日の日本経済新聞電子版に「私大定員割れ、全体充足率は初めて100%下回る」という記事がありました。
今春の私立大学の定員総計は約4千人増えた一方、18歳人口は2万6千人減り、総入学者は9600人減ったそうです。全国に私立大学は597校ありますが、277校で定員割れをしているとのこと。46.4%の大学が定員を満たしていないことになります。
進路指導室を訪れる大学の担当の方のお話を伺うと、学生募集に強い危機感を持っていることがわかります。総合型選抜、推薦入試は、面接、ディスカッション、論文などに手をかけて入試を行い、学力試験だけでは測れない活動歴、人格、意欲、職業観などを総合的に選抜する入試です。もしも一部の大学が、秋のうちに学生を確保したいという思惑だけから入試を実施するとすれば、志望校はじっくりと考える必要があります。
国立大学入試は3月まであります。私立大学も3月になっても募集をするケースがたくさんあります。早く進路を決定したいという思いだけで受験に臨んでしまうことのないように、粘り強く勉強をしましょう。
ポジティブな物語
早稲田大学に、作家の村上春樹さんの著作や資料を集めた国際文学館(村上春樹ライブラリー)が開館することとなりました。開館を前に行われた村上春樹さんの記者会見に関する記事が28日の読売新聞にあります。
村上さんは「今の若い人は自分の未来について、ポジティブな物語を作れているのか。」「僕らが若い頃には、頑張って努力すれば世の中はよくなるという共通認識があった。」と語っています。そして「いつの世の中でも理想はあるべき。」とも話しています。
確かに現代は、高度成長期のような未来への希望を描ける時代ではありません。しかし、若者のエネルギーの強さは今も昔も変わらないはずです。むしろ現代のほうが、次の時代にむけて解決すべき課題は山積しているといえます。生徒諸君が未来について語れば、おのずと勉学への意欲がわいてくるはずです。国際文学館の基本理念として村上さんが寄せた言葉です。<物語を拓こう、心を語ろう>
大学入試のあり方に関する検討会議提言より
先日、検討会議で提言(案)が示されたことをお知らせしましたが、7月8日にこの提言が公表されました。このなかで、大学入試に必要な科目について以下のように述べられています。
経団連と大学関係団体による「採用と大学教育の未来に関する産学協議会報告書」では、文系・理系を問わず大学で身につけるべきリテラシーとして、「外国語コミュニケーション能力」「数理的推論・データ分析力」「論理的文章表現力」が挙げられている。また、令和3年度入試からいわゆる文系学部で共通テストにおいて数学を課す改革が行われた例もあった。と指摘しています。
この提言は、特に社会科学系学部で数学を入試に課さないことによって、学生の数理的推論・データ分析力が不足している実情があることを指摘しているものです。今後、文系学部で数学を入試で必修にするような働きかけがあるのかもしれません。
まずは数ⅠAをしっかり学ぶことが大学進学には必要です。数学から逃げずにこつこつ勉強を積み重ねていきましょう。
女子中高生のための東大工学部紹介
東京大学から、女子生徒を対象とした工学部紹介(Tech Girl Meetup2021.pdf)がオンラインで開催されるというお知らせをいただきました。7月10日(土)の午後、東大工学部の教授や女子学生のお話を聞き、談話会が開催されるとのことです。
詳しくは、東京大学オープンキャンパス特設サイトにアクセスしてください。
総合型選抜・学校推薦型選抜について
6月30日に「第28回大学入試のあり方に関する検討会議」が開催され、提言の案が会議資料として配布されました。このなかで、総合型選抜・学校推薦型選抜を今後も推進すべきことが述べられています。総合型選抜・学校推薦型選抜は一般選抜と比較して、評価に一定の時間を要する選抜方法(面接・口頭試問・小論文試験等)を実施しやすいなど、志願者と大学とのより良いマッチングにもつながる、としているという考えに基づいています。
ところが、AO・推薦入試に関する実態調査の結果、小論文、口頭試問、プレゼンテーションなどの選抜が必ずしも広く行われていない状況があるとのことです。その理由について、選抜に手間をかけることが可能かどうかを考えるために、一般選抜における記述式問題の出題状況を見てみます。提言案では、このことについて、国公立では81.6%であるのに対し、私大では54.1%にとどまるのが現状であると述べています。一般に私大では受験生が多く、採点時間と人材の確保に難しい面があるとのことです。こうした状況が、推薦入試への対応にも当てはまるのではないでしょうか。
今後も、総合型選抜・学校推薦型選抜の理想を追求して入試改革を進めていく必要はありますが、その理想どおりの選抜は実施が難しいのが現状です。どのような選抜が行われるのかをしっかり見極め、単に早く進路を決定したいという動機だけから安易に推薦入学を目指すのは、現状では勧められないという理由はここにあります。
学部選び
3年間を見通した進路指導のなかで、2年生の年度末までに第1志望を宣言してもらいます。もちろん3年次になってからも志望校については検討を続けますが、2年生の終わりまでにいったんは志望する大学像を明らかにしてもらいます。
そのためには進学する学部を決めるわけですが、その際によくある質問についてお伝えします。
まず、「多くの国立大学に教育学部があるのですが、私立大学には教育学部が少ないのはなぜですか。」というものです。教員になるには、必ずしも教育学部でなくてはならないのではなく、教員免許を取得できる課程があればどんな学部でも大丈夫です。私たち教員も、教育学部のほか、文学部や理学部、体育や芸術学部出身の人がたくさんいます。
また、「私大では学科が細かく分かれていますが、国立大は学部で募集するケースが多く、自分の学びたい分野があるのかどうかわかりません。」というものです。国立大学は学部で募集し、入学後に専攻分野を決める場合が多いのです。たとえば、史学科と明確な学科名がなくても、文学部であればまず史学専攻はあるはずです。
いずれにしても、蛍雪時代4月増刊号「学部学科案内号」をみると、自分の学びたい分野がどんな学部にあって、それがどのような大学にあるかを調べることができます。この本は生徒の皆さんの各教室においてありますから活用してください。
何のために学ぶのか
1989年11月、ベルリンの壁が開放される様子はリアルタイムでテレビ放映されました。アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』(The end of history)で、人類が目指してきた自由主義がゴールに到達したと考え、当時世界の多くの人がそれを信じました。
ところがそれは楽観だったのでしょうか。スウェーデンの調査機関V-Demは、2019年の世界に民主国家・地域は87あり、非民主国家は92あると報告しました。あれから30年を経た今、なんと民主国家は少数派なのです。
コロナウィルス対策では強権的な政治を行う国家では、都市封鎖(ロック・ダウン)や個人の行動追跡といった徹底した感染拡大防止策を取り、感染者数、死者数を抑え込んでいます。一方で基本的人権を尊重し、経済活動の自由を保障しつつ「自粛」によって感染拡大を抑制しようとする国家は苦戦しています。
人権を保障しながら経済的繁栄を続け、平和と国民の健康を守る国づくりに諸君はどう関わっていきますか。これを考えるために君たちは今学んでいるのです。進学がゴールではありません。使命感を持って学んでください。
夏の8週間
進路指導室では3年次生の二者面談を進めています。ここで生徒に話しているのは「夏の8週間」を具体的な計画を立てて受験勉強をすること、です。
夏休みは7月21日から8月26日までの37日間です。しかし1学期末には、期末考査最終日から終業式までの2週間は自分の計画に沿った勉強ができます。これと2学期当初の授業が軌道に乗るまでの期間を合わせて8週間の勉強計画を立てるよう勧めています。
志望校とのギャップを着実につめるためには苦手科目を克服することが近道です。夏の重点科目の勉強量を見定め、これを8週間で割り、1週間、1週間目標に近づいていくことを実感できるよう具体的な計画をたてることが重要です。
生徒たちが目標にむけて夢を持って努力を積み重ねることを期待しています。
文理分断からの脱却
この時期、たくさんの生徒が次年度の選択科目をどう選んだらよいか、進路指導室に相談に来ています。志望学部に応じたアドバイスをしていますが、生徒の本音の部分で文系が数学を遠ざけ、理系が古典を敬遠する様子に暗澹たる気持ちになります。
文科省は『Society5.0に向けた人材育成』で文系、理系を分けて学ぶのではこれからの時代を生き抜く人材を育成できないことを指摘しています。名古屋大学の隠岐さや香先生の分析によると、なぜ文理分断が起きたのかといいうと、明治日本が近代化を急ぐために法学と工学を重視し、それぞれの専門分野に特化した大学制度を設計した。しかしそのために、日本の教育制度には高校生の時に文系、理系を選択することで生涯を規定してしまう傾向がある、と警鐘を鳴らしています。専門分野は大学院に行ってからでもよい、とも発信しています。
本校では、文系・理系を分けるのは3年生になってからとし、3年生の夏までは模擬テストでは3教科+1教科以上を受験させています。大学進学のための受験科目だけに絞ってしまうのではなく、すべての教科をバランスよく学んでほしいからです。